だけど、1時間経っても、2時間経っても、聡志は帰って来ない。キャリ-バッグを持って、エントランスに佇む私を、帰って来る住民達は、当然不審の目で見る。いたたまれなくなった私は、仕方なく、駐車場の見える場所に移動する。


何度か連絡を入れ、LINEも送ってみるけど、何の反応もない。


(聡志、そんなに怒ってるの?気持ちはわかるけど、でもこれは、この仕打ちはいくらなんでもひどいよ・・・。)


怒りというより、悲しみがこみ上げてくる。昔、高校生の頃、私達は素直になれなくて、よくケンカした。会っても無視したり、せっかくくれた連絡を返さないで放置したり・・・今思えば恥ずかしくなるくらいの、幼稚なことをし合った。


でも、あの時と違って、今はもうお互い大人だし、なんと言っても私達は将来を誓い合ってるカレカノなんだよ。なにかわだかまりが出来たとしても、ちゃんと話し合えばいいことじゃない。なのに・・・。


ようやく聡志の車が、駐車場に滑り込んできた時、もう時計の針は21時を過ぎていた。ホッとした私の目に、助手席に乗る人影が映る。そしてそれが誰かを、一瞬で理解して凝然となる。


車が停まり、運転席と助手席のドアが開き、それぞれから降り立つ男女の姿が。手を繋いで、私に真っすぐ近づいて来る2人を、私はただ、言葉もなく見つめることしかできない。


「本当に来たのか。」


そう言って、私の見た聡志の視線も言葉も、冷たい。


「遠慮してくれって、言ったはずだけどな。」


そう言って、長谷川さんの手を引き、私の前を通り過ぎようする聡志。


「聡志!」


驚いて、呼びかけた私を、振り返りもしないで、聡志は言う。


「お前に話したこと、たぶんなかったと思うけど、俺は高校でお前と再会した時から、いつもお前と一緒に戦って来たんだよ。」


「えっ?」


「俺はなにかあると、必ず心の中で、お前に語り掛けてきた。プレ-ボ-ルが掛かれば『さぁ、由夏行くぜ。』、試合が終われば『由夏、勝ったぜ。』、もちろん、試合途中でも、何かあれば、その都度、お前に心の中で語り掛けて来た。」


そうだったんだ・・・。