陽菜さんや皆さんのアドバイスを受けて、手直ししたデザインが完成したのは、定時から1時間くらい経った頃だった。


「お疲れ。じゃ、これを渡辺さんの所に届けて、今日はあがるからな。」


「わざわざ届けるんですか?」


「せっかくのお前のデザインが、万が一にも、電子メ-ルなんかで送って、漏洩でもしたら困るだろ。」


「平賀さん・・・。」


「ということで。岩武も疲れただろう、今日は早く帰って休め。」


そう言うと、平賀さんはオフィスを出て行く。他のみんなもおいおい、退社して行き、私は心地良い疲れを感じながら、1人オフィスでまったりしていると、ポンと肩を叩かれた。


「お疲れ、由夏。」


そう言った陽菜さんの暖かな笑顔を見た途端、私は


「陽菜さん!」


と言って、彼女に抱き着いていた。


「どうして、ずっと返信くれなかったんですか?心配したんですよ!」


「お昼に話した通り、海外にいたからさ。ごめんね、由夏。」


「許しません。今度、晩御飯です。」


「ちょっと、今お金ないって、言ったじゃん。」


そんな会話を交わしながら、陽菜さんが帰って来たんだって、実感する。


「言っとくけど。」


それから改めて向き合って、私達は話をする。


「私、あの人を、平賀さんを許したわけじゃないし、和解したつもりもないよ。」


「陽菜さん・・・。」


「そんな簡単に許せるわけないし、あの屈辱を忘れられるわけがない。最初に話、聞いた時は正直『いい気味だ』って思ったもん。」


そう言って笑う陽菜さん。


「でもね、平賀さんと話してるうちにさ。思い出しちゃったんだよ、いろいろ教えてもらったこと。守ってもらったことだって、何度もあった。この人は、やっぱり自分の恩人であり、師匠なんだって。その人が一所懸命に私に謝ってくれて、力を貸してくれって頼んでる姿見てたら、心動くものがあってさ。それになんだかんだ言って、JFCはデザイナ-としての私の故郷。無くなっちゃうのはやっぱり嫌だし。」


「・・・。」


「だから戻って来た。仕事探してたのは事実だし、玲に言われっぱなしのままだったから、リベンジしたい気持ちもあった。それに・・・由夏ともう1度一緒にやりたいって思ったから。」


「陽菜さん。」


「だからよろしくね、半年限定だけど。」


「えっ?」


「さっきも言った通り、私は平賀さんを許したわけじゃないから。今の急場をしのぐ為の助っ人までだよ、引き受けられるのは。だから、半年間の契約社員、それが平賀さんとの約束だから。」


意外な言葉に、私は陽菜さんの顔を見つめてしまった。