一軍と二軍のキャンプの一番の違いは、その練習時間だ。一軍はいわゆる全体練習は午後2時くらいには終了し、あとは個別練習、自主メニューになる。当然、自分の体調に合わせて、軽めの調整にするなんて判断も、ある程度各自に任されている。


しかし二軍は、昼食休憩を挟んで、夕方までビッシリとスケジュールが組まれている。


夜は一軍は、野崎監督の意向で野球知識に関するミーティングだが、俺達は


「野球頭を良くすることは、上に行って、野崎監督に教えてもらえ。」


との前田さんの言葉に表されてるように、夜間練習に精を出す。


こうして、野球漬けの1日が終わって、自室に引き上げると、正直、ベッドの上へバッタリだ。


そして、手を伸ばして、携帯を手に取ると、あいつからのメッセージが届いている。


由夏もいろいろ忙しいようだ。たぶん、退職に向けて、「飛ぶ鳥、跡を濁さず」でやることも多いのだろう。


声を聞く機会がなかなかないのが、寂しいし、不満だが、それでもあいつとのLINEでのやり取りが何よりの癒やしの時だ。


そんな風に、日々を送っていくうちに、一軍は実戦練習がメニューに入って来る。いわゆる紅白戦。


その日のグラウンドでの練習が終わると、俺は前田監督に呼ばれた。


「今度の土曜日、行けるか?」


「はい。」


何が行けるのか、なんて聞く程、野暮じゃない。


「紅組の先発だそうだ、いいな。」


「はい。」


「行って来い。そして、出来れば、そのまま帰って来るな。」


「もちろん、そのつもりです。」


監督の言葉に、俺は力強く答えた。


そして、その夜、由夏から電話があった。実はこの週末、由夏がこっちに来ることになっていた。ちょうどいいタイミング、というか、俺ははっきり、この土曜日の紅白戦先発を狙っていた。


思惑通りの結果となり、意気揚々とそのことを告げると


『よかったね。』


とまずは祝福の言葉を贈ってくれた由夏は、少し間があったあと、切り出しにくそうに、こう言った。


『ごめん、聡志。私・・・今週末、そっちに行けなくなった。』


「えっ、マジ?」


その、思ってもみなかった恋人の言葉に、俺は思わず、聞き返していた。