次の日からも、すれ違いのやり取りを交わすのが精一杯だった私達が、直接電話で話せたのは、キャンプ開始から4日目、聡志の初の休日の時だった。


既に試験を終えた私は、事前にいつでもいいから、聡志の都合のいい時に連絡ちょうだいと伝えてあったんだけど、携帯が鳴ったのは、午後2時くらいだった。


『ゴメンな、中途半端な時間になっちまって。』


「大丈夫、毎日お疲れさま。」


『サンキュー。』


「今は宿舎?」


『ああ、情けねぇ話だが、朝からヘタってる。外出なんて、とてもする気が起きねぇ。』


「そんなにキツいんだ?」


『はっきり言って、練習メニューそのものが、今までに比べて、凄くキツくなったとは思わない。ただ学生の時に比べて、1つ1つの練習メニューが濃密というか、無駄がない。それに、みんなメシ食う為に野球やってるんだ。当たり前だけど、今までとは周りの目も求められるものも、全然違うよ。』


そっか、やっぱり厳しい世界なんだな・・・。


『いろいろカルチャーショックも受けたし、先輩達との力の差もまざまざと思い知らされてる。でもさ、それに凹んでたり、不安を募らせても仕方ない。自分で望んで飛び込んだ世界なんだから。まだまだ始まったばかり、めげずにやってくよ。』


「そう来なくっちゃ。聡志らしい前向きな言葉が聞けて、安心した。」


『俺の取り柄は、そのくらいしかねぇもんな。』


そう言って笑う聡志。


「ピッチャーとキャッチャー、両方の練習やってるんでしょ?」


『ああ、今のところ、7対3くらいの感じかな。まぁ二兎を追う者、一兎をも得ずとの厳しいご指摘も早くも頂いてるけど、これは野球選手としての俺の武器だと思ってるから。そう簡単に捨てるつもりはねぇから。』


弱気な発言から始まって、心配したけど、闘志は全然衰えてないことは、はっきりわかった。私の彼氏は、そんな意気地なしじゃないと思ってはいたけど、改めて頼もしいなと思った。


それからは他愛もないことも含めて、気が付けば3時間くらい喋ってた。ううん、もっともっと話してたかったけど、さすがにキリがない。


「ごめんね、疲れてるのに、こんな長話に付き合わせちゃって。」


『バカ。お前の声聞くのが、何よりの疲労回復剤で明日への活力剤だって、わかんねぇのかよ。』


「聡志・・・ありがとう。」


そんなことを、言ってくれるのが嬉しくて、思わずお礼を言うと


『それはこっちのセリフ。だから、次の休みになっちゃうだろうけど、また声を聞かせてくれよ。』


なんて答えてくれる。


「うん、もちろん。」


『じゃぁな。』


「聡志・・・。」


『最後に1つだけ。』


「なに?」


『由夏、愛してるよ。』


と言うやいなや、電話を切った聡志。


あっ、ずるい。言い逃げ!でも嬉しい・・・私はしばらく携帯を握りしめて、その言葉の余韻に浸っていた。