「嘘でしょ・・・。」


思わず私は呟いていた。この日、仕事が休みだった私は、両親と一緒に塚原家を訪ねていた。二軍日本一を掛けた重要な試合に出場する聡志を、一緒に応援する為に。


序盤劣勢だったEが同点に追い付き、延長
13回表に遂に勝ち越し。私達のテンションも最高潮に達したところに、アクシデントが起こった。


『最後のピッチャーがケガに倒れ、万事休すかと思われましたが、Eにはまだこの人がいました。ご存知二刀流、塚原聡志!』


興奮する実況アナウンサーの声がテレビから流れる。


よっ、待ってました!そんな掛け声が掛かりそうな雰囲気だけど、実際はとてもそんな状況じゃない。


『しかし、塚原はシーズン序盤に5試合、先発ピッチャーとして投げてますが、それ以降は、8月に1イニング投げただけで、後は専らキャッチャーとして、出場して来ました。更に今日の試合は、ここまでキャッチャーとして、フル出場しています。これは過酷な状況となりました。』


「だとしても、聡志以外、投げられる奴がもういない以上、どうしようもない。」


実況の声に続いての、塚原のおじさんの言葉に頷くしかないんだけど、でも・・・。


(聡志、頼んだよ。頑張れ・・・。)


画面に大写しになっている聡志に向かって、声援を送ることしか出来ない。


プレーボールがかかり、厳しい表情の聡志は、力強くボールを投げ込んで行くが、ブランクも緊張もあってか、コントロールが定まらない。


最初のバッターを四球で歩かせ、次のバッターにバントで送られて、ワンアウト2、3塁。一打同点。


更にコントロール定まらず、次のバッターも四球。これで満塁、絶体絶命のピンチ。


「1塁ランナーが生還すれば、サヨナラだ。Eの負けだ。」


「そんな縁起でもないこと、いちいち言わなくていいよ!」


思わずお父さんに言ってしまう。


(聡志、とにかくストライクを入れて。このまま四球で自滅なんて、無様な姿は見たくないよ。)


どんな結末になろうと、もう聡志が投げ続けるしか道はない。だとしたら、聡志には逃げて欲しくない。ううん、大丈夫。私の彼氏はそんな弱い奴じゃない。


って自分を励ましてた途端に、凄まじい打球音が。心臓が飛び出しそうになったが、打球はサード真正面のライナー。天を仰ぐバッターが大写しになったと同時に、私達は拍手喝采。


(いよいよ、あと1人・・・。)


5人目のバッターを迎え、ようやくエンジンが掛かってきた聡志は、あっと言う間にバッターを追い込んで、息つく暇もなく、3球目。聡志得意のストレートが決まる、バッターは空振り、ゲームセットだ!


「やった!」


聡志がマウンド上で渾身のガッツポーズ。その瞬間に、塚原家は大歓声に包まれ、私はお母さんと塚原のおばさんと抱き合って大喜び。


(聡志、やったね。さすがは私の愛しの彼氏!)


グラウンド上に負けないくらいの歓喜の時間は、しばらく続いた。