Eとの入団交渉は全く問題はなく、監督や部長にもお世話になって、スムーズに契約の運びとなった。


それからまもなく、俺は4年間住み慣れた寮を退寮した。


全ての公式行事を終え、引退した俺達4年生は、入寮義務からも解放された。もっとも地方から来ている者もいるし、希望すれば卒業まで寮に住むことは許されている。


卒業に向けて、正直かなりの下駄は履かせてもらってはいるが、それでも全く講義に出ない、試験も受けなくていいなんてことはないし、プロ入りに向けて、練習を怠ることは、もちろん出来ない。


通学、練習という意味では、今の環境は最高で随分考えたのだが、年が明ければ、すぐに仙台に行って、また寮暮らしが待ってるし、少し羽根も伸ばしたかった。それになんと言っても、あいつとの時間を少しでも多く作る為には、やっぱり実家に戻るのが一番だというのが、結論だった。


実家に戻った日は、母親だけでなく、由夏と由夏のおふくろさんも一緒に出迎えてくれた。


「今日は聡志のおかえりなさいと、E入団のお祝いだからね。お父さん達も早めに帰って来るって。」


「サンキュー。由夏、唐揚げ楽しみにしてるから。」


「任しとき。」


本当はどこかで外食でもなんて、話だったらしいんだが、俺がワガママ言って家食にしてもらった。


「おふくろの味」と「彼女の味」がとにかく恋しかったから。


やがて、両方の父親も帰宅して来て、宴が始まった。


何があると、両家合同で、こうやって集まるようになって、どのくらい経つだろう。元々ご近所さんではあったけど、たまたま同じ年に子供が生まれたことがきっかけで始まった付き合い。それが今や、親戚以上の親しい関係。いや、俺と由夏がこのまま結婚すれば、晴れて本当に親戚になる。


双方の親はもうすっかりその気になってるし、もちろん俺達も、そのつもりで付き合ってるんだけど。


「聡志もいよいよプロ野球選手、由夏はプロ野球選手の奥さん。二人とも、子供の頃からの夢が叶って、万々歳じゃないか。」


早くもほろ酔い気分で、上機嫌の由夏の親父さんがこんなことを言う。


「お父さん、聡志は確かにそうだけど、私は別にプロ野球選手の奥さんが夢だったんじゃないよ。」


「そうよね、由夏はプロ野球選手のじゃなくて、聡志くんのお嫁さんになるのが、夢だったんだもんね。」


「お母さん!」


自分の母親の冷やかしの言葉に、顔を真っ赤にして照れながら、抗議の声を上げている恋人が、たまらなく可愛かった。