「私から質問していいかしら?」

「はい。」

純一は何を聞かれるのかだいたいは想像できた。

「自分がぬるいお坊っちゃまとわかっていることに腹が立たないの?」

温子にズバリと言われたことには腹が立たない。

「僕は兄たちとは違います。自分の兄を悪く言うことになるかもしれませんけど、我慢できない時があるんです。僕は三男で意見できるような立場になくて。でも正しくないことは正しくないと言いたい時だってあるんです。すみません、つい力んでしまって。」

「今の、本気でそう思っているのかしら?」

「勿論です。僕は温子さんのように常にハツラツとした姿勢でいたいんです。」

「ハツラツ、ね。」

「違うんですか?」

「私だって暗くなったり沈む時もあるもの。」

純一は不思議に思った。

女性の前で初めて自分の気持ちを言えたことに。

「温子さん。」

「はい?」

「これからも僕と付き合ってもらえませんか?」

温子はそう言われるのではないかと思っていた。

「いいわ。その代わり、良一さんと優一さんにはキッパリと話します。」

「何をですか?」

「私たちのことを。」

「ダ、ダメです。それは絶対にダメです。」

「どうして?心外ね。」

「まだ今は、ということにしてもらえませんか?でないと。」

「でないと?」

「僕が半殺しにされます。」

「アッハッハッハ!」

温子は大笑いした。

「なんでそこで笑えるんですか?」

「だって、半殺しって、現実的でないから。アッハッハッハ!」

「もう、温子さん笑いすぎです。」

その後、

表通りを二人でぶらぶらと歩いた。

温子は純一からもらったネックレスをしきりに指先で触れては

終始気分が良かった。

「純一さん、夕食はどうする?何か食べる?」

「夕食ですか?」

純一は突然の提案に驚き

全く考えていなかった夕食というシチュエーションを頭に描いて

心臓がバクバクしてきた。

「軽く飲んでもいいし、どう?」

「も、もちろんです。」となんとか言葉が出せた。

「じゃ、目黒方面へ歩きましょっか?」

「はいっ!」

純一はこの上なく嬉しい気持ちになった。

この場で温子がリードを取ることは全く気にならないし

むしろそうなることに喜んだ。