会食後はリビングでゆっくり飲みなおす父母たちに構わず

純一は退席して部屋にこもった。

兄たちがそれぞれどこかへ消えたのは言うまでもない。

まず手ぶらでは格好がつかないと考えた。

たかがコーヒーを飲むだけといえども純一にとっては一大イベントだ。

おろそかにはできない。

女性へのプレゼント贈呈にも緊張な部分がある。

「う~ん、悩むことばかりだな。」

コンコンとドアをノックする音がした。

「あ、はい?」

「純一様、お紅茶をお持ちしましたが?」

家政婦のともえの声だ。

「ありがとう。」

ドアを開けて通した。

「こちらに置きますね。」

ともえはソファ前のテーブルにトレイごと運んだ。

「あとでお下げいたしましょうか?」

「飲んだらキッチンに下げるよ。」

「ありがとうございます。」

ポットからカップへ注がれる褐色のアッサムティーを見て

純一は温子の声を思い出した。

美味しいと言っていた彼女は普段どんなスタイルで仕事をしているのだろう。

やはりスーツだろうか。

「ね、ともえさんは何をもらったら嬉しい?」

「純一様、いきなりそう言われましても。」

「例えば、アクセサリーとか?」

ともえはピンときた。

気になる女性へのアプローチとして何がいいかを聞かれたことに。

「やはりネックレスはいくつあっても嬉しいと思います。」

「ネックレスか。」

「はい、リングはサイズがわからないとダメですし、ピアスは一番好みが分かれますし。」

「そうなんだ。」

「ネックレスなら、どんなスタイルにも身につけられます。」

「そうか。ともえさん、アドバイスをありがとう。兄さんたちには内緒にしてね。」

「もちろんでございますとも。」

そう言って部屋を出た。

純一にとって家政婦のともえは幼い頃から頼りにできる唯一の第三者的な人物だ。

温子さんと付き合うことにきっと応援してくれるはず。