会食が始まった。

メニューは特別でもなんでもなく

都内で有名な割烹料理屋の仕出し弁当である。

毎回どこかの弁当で飽き飽きした感がぬぐえないが

ちょっとつまみながら好きな酒を飲んで時間をつぶす程度のことで

曾祖母が満足するなら列席者から文句は出ないだろう。

「良一。」

モニターに映った大おばあ様(曾祖母)から俺に声がかかった。

「はい。」

「おまえも30を超えたはず。良い人はいないのかい?」

一番イやな質問に俺は歯ぎしりしたい気分になった。

「まだいません。」

「私が探してやろう。優一の相手はどうだった?」

二番目にイやな質問に俺はなんとか耐えた。

「自分で探します。俺は優一の見合い相手に興味はありません。」

「そうかい。じゃ、本人に聞いてみようかね。優一?」

やれやれ難を逃れて俺はホッとした。

「俺も自分で探します。彼女は俺のタイプではなかったと思います。」

優一のヤツ、それで適当に誤魔化したつもりか?

大おばあ様を相手にそんな軽い言葉でかわせると思っているのか?

「そうかい。先方様には私から伝えておくよ。それでいいね、優一。」

「はい。」

へぇー今日の大おばあ様は機嫌が良さそうだ。

「純一。」

のんびり屋の純一はまだ25歳だ。

女っ気もなくどうやって欲求不満を解消しているのだろうか。

俺としては不思議でならない。

「はい。」

「ガールフレンドの一人でもいないのかい?」

「いません。」

「妙子、ウチのひ孫たちはいったいどうしたっていうのかね?」

お袋におハチが回った。

「おばあ様、最近は晩婚と聞いております。ウチだけが特別遅いわけではないと思います。」

「一理ある。」

それで納得するような大おばあ様ではない。

「達夫さん、おまえさんはどう思う?」

婿養子である親父に回った。

「そうですね、私は婿でしたので息子たちに嫁をもらうことは正直何もわかりません。」

婿で何々については何もわかりません。

この決まり文句は耳にタコができるくらい聞いていた。

俺だけではなくここにいる全員がだ。

大おばあ様とてわかり切っている父からのこの返答を

どうして毎回言わせているのだろう。

その理由が理解できない俺はまだまだ子供だった。

孫娘の婿といえども将来は早川家の跡取りだ。

すべてのことに無視していいわけない。

一つ一つに関わりがあることを知らしめていくことで

大おばあ様の尺度がわかるというものだ。

モニターの向こうでため息をついた大おばあ様は言葉を続けた。

「毎回言ってるが、何かあったら必ず初歩の段階で対応するように。」

といきなりモニターの画面が暗くなるのも毎度のことだ。