私は武者温子。

飲み会の帰りに他部門の後輩小田周一と駅まで歩いた。

幾度となく告白を繰り返し伝えていたが

彼には幼なじみの彼女岸本良菜がいた。

良い返事は期待できないとわかっていても

私はなかなかあきらめがつかないでいた。

「アッコ先輩、俺はアイツに本気だから。」

「私もあなたに本気なのよ。」

「俺は同類のアイツじゃないとダメなんだ。悪いけど。」

「わかったわ。」

「すまない。」

「その代わり、最後に私のわがままをきいてくれないかしら?」

「わがままって?」

「たいしたことないわ。キスしてほしいの。」

「キス?どこに?」

「どこでもいい。あなたの思うところでいいわ。」

「わかった。」

周一は私の頭のてっぺんにそっとキスを落とした。

それは軽くてふんわりとした髪に触れたか触れないかくらいのものだ。

「ありがとう。」

私は周一を見上げてしっかりと彼の目を見て言った。

「もう飲み会には誘わないでね。」

「わかった。」

私は彼に精一杯の笑みを向けたが

悲しみがにじんでしまうのは仕方がないと思った。

沈んだ気持ちのままでいたくない。

以前からあった見合い話に応じた。

相手は先代から続く実業家の次男坊である。

三人の息子たちその誰もが妻をめとっていないと聞かされた。

特に問題ないかと思われたが

実際はとんでもないご子息たちであることがわかった。