「昨日。俺と母さんを捨てた父親が、家に来ていて」 「うん」 「もう一度やり直したい、って言われた」 佐伯くんは今にも泣き出しそうだった。 きっと、過去を思い出しているんだろう。 父親に捨てられた悲しみと、その時の苦しさを。 「俺は、どうしていいのか分からない」 佐伯くんの目から涙が一粒、こぼれた。 「母さん、かなり取り乱しちゃって。俺はその場を落ち着かせる為に、父さんを一度帰らせたけど」 佐伯くんはセットされた髪の毛を、崩すようにかき乱す。 苛立ちと、悲しみが伝わってくる。