ハチミツみたいな恋じゃなくても。 〜Valentine's Day〜


夢みたいだと言われるのは、過去のことがあるから。


中学生の頃にも、圭太くんにバレンタインチョコを渡したことがあった。

だけどそれは義理で、本命は──。


「あ、今ほかの奴のこと考えたでしょ?」

「はっ、何言って」

「嘘だよ」


あたしの頭を引き寄せ、コツンとおでことおでこをくっつけた圭太くん。


「ありがと」

「……うん」


至近距離で微笑まれ、あたしはさっきとは違う意味で赤くなりながら頷いた。



『喜んでくれるかな』と呟いたあたしに、『花音ちゃんが一番よくわかってるでしょ?』と言ったひかり。


……うん、本当はわかってた。


圭太くんならきっと、喜んでくれるってわかっていたから手作りにしたの。

どんな形でも、たとえものすごく不味くても、圭太くんならあたしの初めての手作りチョコを喜んでくれるって。

だって圭太くんは──。



「好きだよ」

「うん、あたしも」


視線と視線がぶつかれば、惹き合うように重なる唇。

角度を変えて何度も何度も触れ合う度、身体が熱を帯びていくのを感じる。


ラム酒は香味付程度にしか入れていない。

それなのに、甘いチョコレートの香りに頭の中がクラクラする──。