エレベーター

もう一穂と手を握り合うことはできないんだろうか。


1度できてしまった亀裂はどこまでも深く、修復できないんだろうか。


絶望感が胸をよぎった時、一穂の手から花が落ちて行った。


きっと幸生の元へ届けて来た花なんだろう。


続けてその手がポケットに入れられ、ギラリと光る刃物が握られて出て来たのだ。


「殺してやる……」


それは強い怨念のこもった呪詛だった。


「おい、嘘だろ……」


充弘があたしの手を掴んで数歩後退した。


一穂の瞳はギラギラと輝いてあたしたち2人を見つめている。


それは獲物を見つけたハイエナと同様だった。


「あたしにもう少し力があれば、ブロックで殴りつけた時に死んでたのに」


「やめて一穂、ナイフを置いて!」


あたしは一穂の目を覚まさせようと叫ぶ。


しかし、一穂はぎらついた目をしたままあたしたちへ向けて走り出した。


「来ないで!!」


そう叫んで充弘の腕に縋り付く。


一穂の持ったナイフがあたしの眼前に振りかざされようとした、次の瞬間だった。