咲子さんはエレベーター内で発作を起こして、そのまま亡くなっている。


「ボタンを押す暇もなく亡くなったのかもしれない」


充弘の言葉にあたしは頷く。


でも、きっとそうじゃないのだ。


咲子さんの魂がここに止まっているということは、未練や苦しみが残っているということ。


ボタンを押す暇もなく死んだなら、ここまで長年に渡って苦しんでいるはずがなかった。


「きっと、ボタンを押す事はできたんだ。できたのに……それを誰かが、邪魔したんだ。だから咲子さんの魂は、今でもここに残ってる……」


あたしはそう、呟いたのだった。