わぁわぁ言いながら、まだだいぶ先の文化祭の出しもののことで、しかしながら何だかかんだで盛り上がってた。
大量の餃子を作るのも終わりが見えてきたとき、ふと戒の気配がなくなっていた。
騒がしくも賑やかに餃子作りしてたから戒が居なくなってたことに気付くのが遅くなった。
てかあたし彼女失格じゃ!?
戒の姿をキョロキョロ探してると
「戒さんなら浜辺に行きましたよ」とキョウスケが言って、窓の外を目配せ。
キョウスケ…気付いたんならその時点で言ってくれよ…
キョウスケが言った通り、戒は白いリネンシャツと濃いベージュのチノパンと言う今朝と変わらない恰好で、波打ち際で突っ立っていた。
ちょうど陽が暮れる時間帯で、空は深いオレンジ色の絵具を垂らしたような空模様だった。
「あいつ、何やってんだ?」
思わず首を捻ると
「さぁ、“太陽にほえろ”ごっこでもしてるんじゃないですか?」とキョウスケはあまり興味がなさそう。(太陽にほえろ、は故松田優作さんの名作ドラマですね♪)
何だそりゃ、と思いつつ、せっかく旅行に来てるのに一人で行動とか……ちょっと寂しくしてると
「餃子もほぼ作り終えたから、虎間 戒のとこに行ってきたら?」とイチがぶっきらぼうに言って窓の外を目配せして
「え…でも…」と迷ってると
「あとはうちらでやっとくから~朔羅行っておいでよ♪」とリコに背中を押され、結局あたしは戒の後ろ姿を追うことになった。
何の考えもなしに戒を追ってきちゃったけど、考えたら戒だって一人になりたいときもあるかも…と途中で考えた。
昼の熱を吸収した砂がビーサンを埋もれさせ、あたしの足裏が熱くなった。
思わず立ち止まると、出し抜けに戒が振り返った。
「朔羅―――?」
戒は笑顔を浮かべていた。昼と夜とが交替しようとしている今、淡い紫と燃えるようなオレンジ色の微妙な色合いのコントラストの中、戒の屈託ない笑顔を幻想的に浮かび上がらせている。
あ、
きれい―――
と思った。男に『きれい』は褒め言葉かどうか分かんないけど、でもそう思ったし、その言葉がぴったりだと思った。
「……な、何で分かったの?あたしがいるって…」
思わず顎を引くと
「お前の香り。
俺の大好きなCherryBlossomの香りが香ってきたから」
戒は波打ち際から引き戻し、素足で砂浜を歩いてくる。チノパンは折りめくられてたが、裾の方は海水で濡れていて濃い色に染まっていた。
「相変わらず嗅覚犬並だな」あたしはわざとチャラけて笑った。
「そりゃ好きな女の匂いだからな」と戒は軽く笑って肩をすくめたけれど、あたしの心臓はドキンと大きく鳴った。
そんな…不意打ちに『好き』とか言われたら、やっぱ嬉しいし。
「何…してんの?」照れ隠しで海の方を目配せすると
「何って、今なら人居ないし、ひと泳ぎしようかなって」
「ひと泳ぎって…その格好で!?」
思わず目を丸めると
「え?ダメ…?」と戒が子猫系のうるうるお目めで聞いてきて
スキュンっ!とあたしの心臓にハートの矢が刺さったのは言うまでもない。



