「タイガがこっちに来た時期は?」と俺が聞くと


「それはお前の方が詳しいだろう」とタチバナは眉間に皺を寄せてちょっと苦笑。


俺はタイガが何故この世界に入ったのかよく知らない。そもそも青龍会の人間だけで何百人と居るのだ。いちいち覚えてられない。


「まぁまぁ橘くん、そんな風に睨んだら男前が台無しよ?


大狼 恵一は32年前、彼が小学校3年のときね、それまでこっちの施設にいたみたい。けれど親戚筋みたいな里親のところに引き取られてるわ」


「ヤツが元は玄武の人間なら、こっちで……しかもカタギの親戚ってのはちょっと考えにくいな」と俺が目を細めると


「経歴なんて幾らでも詐称できる」とタチバナが腕を組んで「ふん」と鼻息を吐く。


「大まかな経歴は分かった。ヤツの金の動きは?」俺がタチバナに聞くと


「目立った大金が出入りした形跡はない」とタチバナが目を細め


「国内に3つの金融機関に口座があり、そのどれも同じ大きな出納(すいとう)はないわ」


と彩芽が吐息をつく。


「“国内”と言ったな」俺が彩芽を見ると、彩芽はちょっと疲れを滲ませた吐息を吐き


「スイスみたいなプライベートバンクに口座を持ってる可能性もあるけれど、流石にこの短期間でそれは探せない。


それに口の硬さは世界一。たとえ犯罪者であっても情報開示の提供命令は無理ね」


と眉を下げる。


「シンガポールや香港も考えられるが、やはり調査する時間がない。それにスイスのようなプライベートバンクのことならお前んとこの鴇田の方がよっぽど詳しいだろ?」


タチバナは皮肉って、暗にマネーロンダリング(資金洗浄)のことを指していると分かったが、一課のタチバナの縄張りではない。と言うことでタッチできない、ってことか。


「それにもう一つの壁、スイスに口座を持つ場合維持費などを含めて、約1,000万円の預金が必要よ?その金額を動かした形跡もないから、恐らく海外に口座を持っていない、と思うのが妥当じゃないかしら」彩芽が言い


銀行の出納記録も、ほぼ不審な点はない―――か……