「あー、どうやったらリコのこと諦めてくれるんだろ~」
帰りの車の中、後部座席で揺られながらあたしはため息。
同じように隣に座った叔父貴は腕を組みながら苦笑い。
「まぁこればっかりはな…」
そうだよな……気持ちまで強制できねぇし。
「ユズのヤツ、川上さんに本気なんだな」
叔父貴は窓の外…流れる東京のネオンを見つめながら眩しいものを見るような顔つき。
「う…うん…」
「ま、あいつも若けぇし、こっから先の未来だってある。もし川上さんとうまくいっても、いかなくても
あいつには道がある」
「叔父貴だってユズと大して歳変わらないじゃん」とちょっと笑うと、叔父貴はふと顔をこちらに戻し、
寂しそうな……切ないような…複雑な笑みを浮かべてあたしの頭を撫で撫で。
また―――だ。
また、叔父貴がどこか遠くへいっちゃうような、そんな感覚。
「叔父貴」
あたしが口を開くと
「ん?」と叔父貴はさっきの寂しそうな笑顔をしまい、いつもの…あたしが知ってる笑顔を浮かべて
「どこにも行かないで」
あたしの言葉は漠然とし過ぎていたのかもしれない。叔父貴は「俺ぁ会社だってあるし、どこにも行かねぇよ」と笑った。
「行っちゃうような気がする。
ここじゃないどこかへ―――」
またも漠然とした言葉が口に出て、あたしは慌てて口を噤んだ。
あたしの言葉の意味を、今度はちょっと理解したのか、叔父貴はほんの少し微笑を浮かべ
「どこにも行かない。少なくともお前が結婚するときまでは。
俺の夢は花嫁とバージンロードを歩くことだ。
新郎に花嫁を手放し………」
と言いかけて、「その前にアイツの頭をぶち抜くかもしれねぇ」と叔父貴は、またもちらりとスーツの中のハジキを見せてきて、あたしはぞっ!とした。
「お前の結婚式では泣かないし、予行演習もするからバッチリだ」
予行演習…?
「キリの結婚式のときに俺はキリと一緒に歩く!」
何に宣言してるのか分からないが、叔父貴の意気込みは分かったよ。単にこの人はバージンロードを花嫁と歩きたいだけだろ、と思うとちょっと笑えてきた。
だってバージンロードだぜ?
「激しく不釣合い」
とちょっと笑うと、叔父貴も笑い返す。
この時間が
今は心地良い。
いつか、こんなくだらない話をして盛り上がったことを忘れちゃわないように
あたしもいっぱい笑った。