あの夜、目を開け、自分を見た帯刀(たてわき)の鋭い視線に、

 いっそ、今すぐ殺してください……と思ってしまった羽未(うみ)だったが。

 よく考えたら、襲われたこっちが殺してくださいって、おかしいよなーと今になって思っていた。

 そんなことを考えながら、社食でトレーを手に並んでいた羽未は、後ろに誰かが立った瞬間、ひっ、と身構える。

 すぐ近くで感じた、その香りと気配と体温に覚えがあったからだ。

「……は、春成課長」

 オツカレサマデス、と羽未は青ざめ、機械の音声のように言ってしまったが、帯刀は、いつものように、

「お疲れ」
と素っ気なく言ってきだけだった。

 やはり、あれは夢だったのだろうか、と思いながら、羽未はチラと帯刀を振り返る。