羽未は記憶の奥底に埋め込んでいたある女性の名前を思い出しかけてやめた。

 それは羽未の秘密の記憶につながるものだからだ。

 だが、帯刀は真剣に自分を見つめてくる。

「えーと……」

 どうしたもんかな、と思いながら、羽未は言った。

「なにか我々はいろんなことをすっ飛ばして此処に居る気がするので。
 とりあえず……お食事にでも行ってみませんか?」

 なんだかそう言わなければ収まりがつかない気がしたので、そう言うと、帯刀はホッとしたような顔で、ちょっとだけ笑った。

 ……え~っ!

 可愛いじゃないですかっ。

 っていうか、笑えるんじゃないですかっ。

 いつものムスッとした感じも凛々しく見えて嫌いじゃないんですけど。

 ……あ、いや、別に好きってわけじゃないんですけどっ、と羽未は一生懸命、心の中で弁解する。

 だが、そこで帯刀はちょっと困った顔になり、
「……何処に行こうか」
と言ってきた。