「あっ、もう時間ですね。
 行かなくちゃっ」

 だが、出ようとしたとき、強く腕をつかまれた。

 引き寄せられて帯刀の胸にぶつかると、ふわっと帯刀の匂いがした。

 帯刀のあとに風呂に入ると残っている帯刀のシャンプーやボディソープの匂いと同じだ。

 帯刀は背後から羽未の顎にそっと触れると、軽く持ち上げ、口づけてくる。

 ……妖怪顎クイ様は、すっかり顎クイがさまになるようになってしまったので、よそでやったりしないか、私は心配なんですけどね、と思いながら、羽未は赤くなる。

「……できるだけ早く帰るよ」
 そう耳許で囁かれた。

 はい、と照れたように答えると、
「家で襲いかかっても、A4でしとめにかかるなよ」
と帯刀が言ってくる。

 ちょっと笑ってしまった。

 帯刀に先に出てもらい、ちょっと遅れて鼻歌まじりに羽未が出ていくと、少し先の廊下から士郎が手招きしていた。

 今度はなんだ、と思いながら、羽未はそちらに近づく。