「まあ、そもそも好きじゃなきゃ、お持ち帰りしないんじゃない? 課長みたいな人は。

 なんでも、やったあラッキーってタイプじゃないじゃない」

 和花(わか)が笑って、
「街角で配ってる試供品でもいらなかったら断りそうですよね」
と言う。

 私は試供品か、と思ったが、ちょっと嬉しくもあった。

 弾みとか勢いとか、責任を取るとかいうこと抜きに、もしかしたら、課長は本当に私のこと好きでいてくれるのかもと思ったからだ。

「少なくともあんたの方は前から課長が好きだったでしょ」
と阿佐子に言われて驚く。

 その顔を見て、阿佐子が言った。

「やだ、あんた覚えてないの?
 怖いわね、酔っ払いって。

 楡崎(にれざき)が誰か課長に鈴つけて来いって言ったとき、あんた、二回とも、
『はいはいっ、私が行きますっ!』
 って言ったのよ。

 他の女子社員が手を上げようとしたら、慌てて」

 ひーっ。
 覚えてませんっ、と羽未は固まる。