「どうして俺の部屋から走って逃げたのかと訊いてるんだ」

「か、課長に知られたくなかったからです」

「なにを」

 詰問(きつもん)されながら、えーと、その、と羽未は赤くなって俯く。

「課長となにかあったことをです」

 言うのも恥ずかしいな、と俯いたままでいると、頭の上から帯刀が言ってくる。

「……あれを全部なかったことにしようと思ったのか」

 どれをですかっ?
 記憶がないんですけどっ、とどんどん不安になる。

「簡単になにもかもなかったことにできるなんて淫乱だな」

 いやいやいやっ。
 あまりのショックに記憶から抹消しようとしただけですよっ、と見上げると、帯刀は溜息をついていた。

 なんだろう。
 口調はきついが、駄目な子にしょうがないな、と溜息をつく、先生のような感じだった。