「あれ、お前の妹だろ」
倉木が窓の外に視線をずらした。
そこには、中庭を歩く仁菜の姿。クラスメイトであろう友達と、紙パックのジュースを持って歩いていた。
「お前に妹がいたなんて初めて知ったよ」
「わざわざ言うことでもないだろ」
仁菜は楽しそうに友達と話していた。中学の時は同級生と色々あって落ち込んでいたこともあったけど、今のところは大丈夫そうだ。
「橋本の妹ちゃーん!」
なにを思ったのか、倉木が窓を開けて呼びかけた。ただでさえ大きな声は乾いた空によく響く。
「おい、やめろって」
「えーいいじゃん。妹ちゃーん」
2回目の声に、仁菜は顔を上げた。
「こんにちは。俺ね、橋本の親友!倉木だから気軽にくらくんって呼んでね」
戸惑う仁菜に向けて、倉木は手まで振っていた。
「あ、えっと、こんにちは。仁菜子です!」
「うんうん、知ってるよー。今日の昼飯、食堂で一緒に食べようよ。美味しいカツ丼があるからご馳走してあげ……いてっ」
ペラペラと油が乗っている舌を黙らせるようにして、俺は倉木の頭を叩いた。
倉木の注意が逸れたところで、俺は仁菜に〝今のうちに向こうにいけ〟と目配せをした。仁菜は小さく頷いたあと、友達を連れて俺たちの視界から消えた。
「仁菜を目立たせるんじゃねーよ」
倉木に説教しながら、窓をピシャリと閉める。
「え、なんで?」
「なんでじゃねーんだよ。バカ」
納得できない倉木はぶつぶつと言い返してきたけれど、俺はそれらをすべて聞き流した。



