「火傷なんてもうねーよ。つか、とっくの昔にかさぶたになって綺麗に剥がれた」
嘘。今も肩には赤紫色の痕があるけど、仁菜が気にするから絶対に見せないと決めている。
「……あの時、私、怖かったんだ」
「そりゃ、油が降ってきたら誰だって……」
「違うよ。お兄ちゃんが私のことを守ってくれたこと」
そう言って、仁菜はくるりと身体をこちらに向けた。
「お兄ちゃんはこれからもケガをすることなんて気にしないで私のことを庇う。私のせいでお兄ちゃんを傷つけたくない」
仁菜がそんな風に思っていたなんて知らなかった。でも……。
「お前はなんにもわかってねーな」
しんみりとした空気を変えるように、俺は仁菜のおでこを軽く小突いた。
「わかってないって?」
自分が傷つくよりも、仁菜に傷が残るほうが耐えられないってこと。つまりそれは、仁菜のことが誰よりも大切だということだ。
それを、口に出したらどんな反応をするだろう。
もう二度と、こんなに近い距離にはいられないかもしれない。
たまに、ふと、心にブレーキがあったらいいのにと思う。
現実的に考えて、世間的に考えて、例え血の繋がらない兄妹でもこんな気持ちを抱くのはダメだろうと、理解している。
だから、俺の行動を制御できる装置があれば、触りたいなんて、そんなやましい気持ちにはならない。
でも残念なことに、人間はそんなに性能よくできてはいないから、自分で自制するしかない。
わかってる、わかってんだよ、そんなことは。
「仁菜」
気づくと俺は、掬い上げるようにして仁菜の髪の毛に触れていた。



