「そういえば仁菜子ちゃん、夏休み補習があるんでしょ?」
「うん。期末の結果がヤバかったから……」
「中間もだろ」
「お兄ちゃん、黙って」
三人で他愛ない会話をしていると、一際目立っている男子生徒が目に入った。
「仁菜子ちゃん、おはよう。橋本先輩、境井先輩もおはようございます」
礼儀正しく挨拶をしてきたのは、速水だった。
仁菜はまだ告白の返事を保留にしてるそうだ。
志乃には色々と相談してるみたいだけど、俺は詳しく知らない。
それでも今度ふたりで映画を見にいく約束をしていることは、仁菜から教えてもらった。
仁菜と速水が並んでいる後ろを俺たちも歩く。
「これでやっと妹離れできそうですか」
志乃が俺の様子をうかがうように聞いてきた。
「いや、兄貴としての役目はこれからも続いていくと思うよ」
家族の縁は切れない。
いつか仁菜のことを誰かに託さなきゃいけない日もくる。
その時にはちゃんと兄貴として、よかったなって。
おめでとうって言えるように、成長していきたい。