やっと家に上がらせてもらえてリビングに向かうと、親父が腕組みをしながら座っていた。
どうやら怒ることは母さんに任せていたようで、とくに叱られたりはしなかったけれど、「次からはちゃんと連絡を返すようにしろ」とだけ言われた。
「お兄ちゃん」
そして洗面所で様子をうかがっていた仁菜がやってきた。
きっと俺と同じようにどんな顔をしたらいいのか迷ったはずだ。
でもこうしてこの場所にいると、仁菜は妹の顔をしてるし、俺もたぶん兄貴の顔になっている。
「おかえり」
仁菜がうっすらと微笑む。
「うん、ただいま」
その言葉を言った瞬間に、なにかがストンッと落ちた気がした。
自分が守りたいものはなんなのか。
仁菜とどうなっていきたいのか。
まだおずおずとしながらも、自分の中で小さな光が見えてきたような感覚がする。
久しぶりに家族四人で囲んだ食卓は騒がしかった。
母さんの作った唐揚げを仁菜と取り合って、親父がそれを見て笑っている。
10年の月日をかけて築いてきた形。
それは自分が思っていたよりも、ずっと暖かな場所だった。



