俺は仁菜を自分だけのものにしたい。
でも、ふたりだけの世界なんてない。
なにもかも犠牲にして連れ去ることはできないし、そんなことをしたら、仁菜はもう俺の好きな顔で笑ってはくれないだろう。
「ここまででいいよ」
ファミレスからの帰り道。家路へと続く道を歩きながら、志乃が足を止めた。
「柊もちゃんと家に帰るんだよ」
「わかってるよ」
仁菜とちゃんと話さなきゃいけない。あいつもそのつもりで、俺のことを待っていてくれている。
「ねえ、柊」
と、その時。グイッと志乃に胸ぐらを掴まれた。そして柔らかい唇がゆっくりと重なる。
「ムカつくぐらい大好きだよ。だからもういい加減、私にしときなよ。じゃあね」
志乃はそう言って、少し早歩きで帰っていった。
俺は指先で唇をなぞる。
震えてんじゃねーよ、バカ。
本当は脆くて弱い女の子なのに、俺が志乃のことを大人にさせてた。
なんで大切なものは、ひとつじゃないんだろう。
なんで人を好きになっただけで、こんなに苦しくならなきゃいけないんだろうか。
恋って、本当に面倒で厄介だ。



