ごめん。ぜんぶ、恋だった。




「ねえ、お母さん。お兄ちゃんが火傷した日のこと覚えてる?」

「もちろん忘れないわよ」

「……あれね、私がドーナツを作ってって言ったんだよ」

高温の油の中で膨らんでいくドーナツ。高校生になった今でも危ないなって感じるのに、あの時のお兄ちゃんは踏み台も使わないで背伸びをしながら油を使っていた。

……ケガはしてしまったけど、もっと取り返しのつかないことにならなくて本当によかったと思う。


「知ってるわ」

「え?」

「だって柊がドーナツを作ろうなんて思い立ってやるはずがないもの。きっと仁菜子が言い出したんだろうってお父さんも知ってる」

「じゃ、なんであの時、言わなかったの?」

「言えないわよ。だって柊があんなに(かたく)なに『俺がドーナツを食べたかったから作ったんだ』って言われたらね」

お母さんが苦笑いを浮かべていた。


キッチンペーパーを敷いたトレーに揚げてのドーナツが次々と並べられていく。熱そうな湯気と甘い香りがふわっと充満していた。


「……火傷の痕って綺麗になるものなの、かな」

「薄くはなるだろうけど完全には無理よ。だから今だって柊の肩には残ってるじゃない」


……そんなの知らない。私にはとっくの昔にかさぶたになって綺麗に剥がれたと言っていた。

お兄ちゃんは、嘘つきだ。