「ふふっ。
残念ながら私の完全な片想いだよ。
一度も話したこともない人。
私の名前も存在もしらないはず」

制服を掴んでいた小さな手がぎゅっと私の手をにぎった。

「僕が!
僕がすぐ大きくなるよ。だから、もう少しだけ待ってて?」

「うん、わかった。
楽しみに待ってるよ」

「ねぇ、お姉さんの名前聞いてもいい?」

「私?菜の花の ”菜” にお月様の ”月” って書いて菜月って言うの。
キミは?」

「僕は…。
ごめんなさい。お母さんが外で名前は言っちゃいけないって…。
でも、仲のいい友達には ”たっくん“ て呼ばれてる。
だからなっちゃんもそう呼んでくれる?」

「うん、わかったよ。
たっくん、また明日ね!」

手を振る私にたっくんも手を振り開いた扉から元気に飛び降りていった。

その後ろ姿を追うように服部くんも下車していく。

一瞬チラっと私を見たような気がして心臓が跳ね上がる。

気のせいなのに私の心臓がせわしなく動き出す。

扉が閉まって二人の姿が視界から消えると、ふぅーっとようやく息を吐きだして少し熱くなっていた頬に手を添えた。

今日も服部くんはカッコよかった。

うん、今日も一日元気に頑張れる。

二人が降りた次の駅で私も電車を降りた。

また明日を楽しみ足取りも軽く学校へ向かった。