私と美月は左目目尻の下にほくろがある。

美月はこのほくろが嫌いなのと、私たちが見分けがつきやすいようにいつもほくろをお化粧で隠していた。

触れられたこともそうたが、ほくろの秘密がばれてさらに私の心臓がバクバクする。

そんな私におかまいなしに、服部くんは顔を近づけ声を潜めてこう言った。

「藤咲に話したいことあるんだ。
明日10時、T駅改札で待ってる」

目を細めて私に笑いかけた服部くんは…そのまま席を立ち、鞄を持って前方で騒いでいる男子の輪に入って行った。

このあと、バスケで優勝した私たちはみんなで打ち上げに向かう。

私は…もうすぐ到着する美月と駅で服を変えて入れ替わる。

服部くんとの楽しかった1日はもうすぐ終わる…はずだった…。

明日…。

私ではなく美月が…行くべきなんだろう。

今日、ものすごく楽しくて幸せな1日だった。

私に向けられた彼の笑顔と優しさは…美月に向けられたものだ。

彼の密かな想いに触れて胸が痛んだ。

1日、騙しててごめん。

服部くんはたぶん…美月に好意をもっている…。

たとえ今、美月が叶くんを好きでも、彼に優しく微笑まれ、告白されたら…たぶん付き合ってしまうんだろう…。

ずっと服部くんの背中を見つめながら、カラオケにみんなで向かう途中、私は沙弓に目配せして美月と合流して菜月に戻った。

黒縁眼鏡を身につけ今日1日クラスメートだったみんなの後ろ姿をそっと見送る。

「美月を好きなんて知りたくなかった…、
やっぱり…美月になりすまさなきゃよかった…」

小さな呟きは、そのまま小さくなっていく服部くんの後ろ姿が見えなくなったと同時に周りの騒音に飲み込まれた。