「叶、お空を見て。
真ん丸なお月さまよ」

「ほんとだ。まんまるだ!」

ベランダから母さんと見上げた空にはまあるい月が夜空に浮かんでいた。

「叶、お母さんは大事なことたまに忘れちゃうけど、叶のことは大好きでこの気持ちだけはなにがあっても絶対忘れないから。約束」

差し出された小指に

「うん、約束!」

と自分の小指を絡ませた。

「お月さまを見上げてお願いするとね、お願いを叶えてくれるのよ」

「えー?
お母さん、お願いを叶えてくれるのはお星さまでしょ?」

「あれ?七夕ってお月さまにお願いする日じゃなかったっけ?」

「七夕はお星さまだよ、お母さん。
でもお母さんとぼくの願いごとを聞いてくれるのは今から真ん丸いお月さまなんだよ」


空に月が浮かぶたび、幼い頃の母さんとのやりとりを思いだす。

公園のベンチで見上げた空に向かい手を伸ばす。

「お月さま、俺の想い彼女に届けてほしい。
やっとみつけたんだ、心がざわつく存在を。
俺だけの大切な存在にしたいんだ」
うん、彼女にしたい。

俺は藤咲美月を彼女にしたいんだ。