私は、いつもの日課の鍛錬を終え、身なりを整えてマシェリーの部屋に入った。
「おはようマシェリー今日は忙しいので夜まで戻って来れないんだ。
いつもマシェリーと一緒に居たいのだがすまない、明日からはいつも通り過ごせるから」
私はマシェリーの頬を撫で、柔らかさを堪能してから、お別れのキスをして部屋を出た。
扉を閉める前にマシェリーを振り返り、寝ているマシェリーを見て、胸に騒めきを覚えた…
昔、荒れた戦闘になる前兆なのか、たまに朝騒めきを覚えた日々があった。
それが、今起こったのだ。
何故だ?今日何か起こるのか?不審に思いながらも、時間に押されて扉を閉めた。
その事の判断を私は後々後悔する事になった。
そろそろ日が沈み始めた頃、舞踏会が始まった。
私は、参加はしたが踊る気も無く、話しかけられたら返すだけで端の方にいた。
女達は寄っては来たが、相手をしなければ自然と引いていく、纏わり付いて来たとしても、振り捨てる。
私は別に、この国に居たいわけでも貴族や高官達と仲良くしたいわけでも無い、本心は他の国に行きたいくらいだ。
この国には、少しも良い記憶は無いからな。
騎士団の者達は別だがな、彼奴らは一生懸命身体を張っている者達が多い。
数人違うのもいるが、仕方ない事だ。
そういう輩は何処にでも居るものだからな。
そろそろ宰相達も空いただろうから、挨拶してマシェリーの元に帰るとするかと、王族達に近寄った時、嫌な女が近付き腕を組んできた。
此奴は特に嫌いだ。
其奴が、有ろう事か父親である隣国の国王に、私を勝手に紹介し始めた。
「お父上様、この方がわらわの婚約者になるかたなのじゃ~
バージル様と言ってな、大きな声では言えぬが、とっても名誉な方なのじゃ~
我が国に連れ帰って、わらわと結婚するのじゃ!
皆にこれから報告致します」
あっという間に、ベラベラ大声で叫びだした。
私は、大扉の横でとても美しい女神のような、眠っているはずのマシェリーを見つけた。
視線を外せずに、ずっと見ていた。
隣の女が喋り終えた後、口からマシェリーの名前を呟いた。
彼女の元へ行きたくて…目が合い嬉しくて一歩踏み出した時、マシェリーが逃げ出した。
私は隣の女の手を振り払い、周りが何やら煩く叫んでいたが、無視してマシェリーの元へ駆け抜けた…
マシェリーに追いついたと思ったら、浮いて窓から外に出て行った。
マシェリーが、私から離れドンドン空に舞い上がり、挙句見えなくなった……………………。
「どういう事だ…後を追わないと…」
私は、すぐさま部屋へ帰り荷物を纏め走りだした。
王宮前に宰相とレオンがいた。
「待っていたぞバージル殿、行くのだろう、これらも必要になるから持っていけ…
大事な娘なのだ、絶対に幸せにしてやってくれ…
いつでもいいから、落ち着いたら顔出せ」
「バージル殿、仮にでも私の婚約者だった者なのでね。
それに、本当に結婚しても良かったんだけどね~
国の事も騎士団も、大丈夫だから安心して追いかけろと、皇帝陛下からの伝言だよ。
早く行かないと逃げられちゃうよ」
私は、かなり重いものを積んだ賢そうな、艶やかな漆黒の青毛を持った馬を、宰相から受け取り軽く肌に触れた…
お互い意思の疎通ができそうだ。
「いい馬だ」
「エンペラーだ、大事にしてやってくれ、君ならきっと乗りこなせるだろう」
「ありがとう、任せてくれ」
私はエンペラーにふわりと乗り、暗黒の道に駆け出した。