私の名前はバージル.セイバー。
約500年前の皇帝だった男だ。
あの時代は何処の国も、争いの絶えない切迫した時代だった。

私も父親が戦で重傷を負い、10代から戦に皇帝として出陣して、数え切れないほどの人間を殺した。
私が死んでも、下に母親違いの弟がゴロゴロ居たから私は所詮、捨て駒だ。

近隣諸国と日夜遣り合い、私の精神も疲弊し、その憂さ晴らしでその日その日で、色々な女を抱いてきた。
その時だけが自分が生きている気がしたからだ。
愛情なんかは全く無い、顔も誰一人憶えていない。

友が出来ても明日には其奴は死んでいくんだ。
私も何度死に目を見たか、その度に周りにいる奴が私の身代わりになる。
そんな生活を数年過ごし、やっと国々が落ち着いて、私も平穏な日々が過ごせると期待した時。

何度か一夜を過ごした魔法使いが居たらしいが、全く憶えてないがな、其奴が…

「妃にしてくれ、愛している」と言い出した様だ。
周りは其奴を遠ざけようとしたし、私は目線も合わせなかった。
良くあることだったからな、私にはそんな気はもうとう無い。
女自体捌け口としてしか見ていないからな。

その時、其奴が私に叫びながら両手を広げ、掌を向けて真っ赤な光を浴びせたんだ。

私は、その後の事は知らない。
気づいたら、森の中に犬になり気を失っていたのだから。
その事に気付いても私は、何も思わなかった。
感情が、人を殺し始めて数え切れなくなった頃から、無くなったから…
犬でも、自由で良いか位の気持ちだった。
国の事もどうせ私は駒の1つだ。
次のスペアも充分居たから、戦闘狂いのバージルなんて悪名を持つ私は、居なくて良いと思っていた。

自然の中で、のんびり過ごした。
綺麗な空気や景色を感じて過ごし、食べ物も木の実や小動物を刈り生きてきた。
魔法も少しは使えたから、野獣に襲われたりしても撃退できていた。

流石に、300年経った頃は飽きてきて、街の様子が気になり辺境に住み着いたんだ。
彼処は居心地いい場所と人間達だった。私の事も薄々気づいていたみたいなのに、詮索しようともしない。

私も、長い間死にもしない自分を調べようと、辺境を拠点に動き出し魔法の一種だとは思っていたがまったく手掛かりがなく、辺境に来て200年経つぐらいでマシェリーと出逢ったんだ。

あの娘は今迄出逢った人間とは違った!
何が違うのかは判らないが、確実にあの娘と他の人間は違う!
辺境に居て、あの娘を目を閉じて想うと、瞼にあの娘の姿が見える様になった。
私はそれからあの娘の成長を見続けていたが、だんだんあの娘の周りが煩くなって居るのを見ると、自然と脚が動き学園へ向かっていたんだ。

それからは、今迄の人生で一番幸せな日々を過ごしていた。
あの娘に抱き締められると、私はとても幸せな気分になるらしい!

それなのに、あの娘の帰りをベッドで伏せて待っていたら、いきなり身体が震えだした。
異変を感じ目を閉じると、あの娘の身に危険が迫っていると思った同時に魔力が溢れて、その場所に飛んで護っていた。

鋭い痛みが背中を貫き、あの娘の暖かさと匂いに包まれ、やっと死ねると…
なんて幸せな死に方だと嬉しく思い目を閉じた………
あの娘以外何も感じたく無かった…

小さな重みに気づくと、あの娘が私を抱き締めたまま意識を失っていた。
その身体からは、銀色の強い眩い光が溢れ出し、私の身体を包んでくれていた。あの娘の心の様な、なんとも優しく強い光だと、思っていたら。
私の身体が自然と人間の形に変化していることに気づいた。
これでマシェリーを、私が抱き締め撫でてあげられるかもしれないという事が嬉しかった。