俺は急いで愛馬に騎乗して、王宮迄2時間半の道のりを、制服のまま駆けている。

何故俺はこんなに急いでいるのだ。
今は夕方で王宮に着く頃はきっと、日は沈んでいるだろう。
別に明日の朝でも良かった筈なのに、身体が勝手に走り出していた。

俺は人は信じないと誓ったのに、あいつが俺を信じると、裏切られても良いと言ったのが、何処と無く嬉しかったのかもしれない。
人とつるまないし、信じないでここまで来た俺が、いつの間にかあいつには知らない間に手を貸しているんだ。
何故なんだ。あの聖女もどきが近寄って来て、俺の耳元で。


「貴方の気持ちは私には解るの、お母様の事で貴方は人を信じられなくなったのよね。
大丈夫よ!私は貴方の味方だから、もう頑張らなくてもいいの」


ゾッとした…身体が震えた…気分が悪くなったんだ。
そういえばあの時、指輪が熱くなった様な気がした…
聖女もどきが言ったように、俺は人が信じられなくなったんだ。
俺のせいで母親が亡くなってしまったから。

母親は、男爵家の令嬢だったんだ、国の端の方にある田舎の領地で、馬を繁殖させて飼育し調教して、国でも1番の馬の育成牧場なんだ。
そこで、馬が好きだった父親が視察にきて、母親と知り合ったらしい。
母親は活動的な人で、騎乗はもちろん剣も、かなりの腕前だったらしい。
令嬢にしてはかなり珍しいタイプの人だったと、父親が良く笑って話してくれたんだ。
仲の良かった2人から良く、出逢った頃の話を聞かされたんだよな。

俺が7歳のある日、当時母親と姉妹の様に仲の良かったメイドが居たんだが、ある日俺に着いてこいと言ったから、信用してついて行ったんだ。
そしたらそこには母親を毛嫌いしている女が居た!

母親から危ない人だから絶対近寄ってはいけないと、言われていた女だったんだ。
そいつは、父親の事が好きで愛人でもいいからと、迫っていたと父親から後から聞いた。

何故かそこに、あの女が居て憎しみを持った目で見ながら、笑っていた。


「貴方が…髪も瞳もあの女にそっくりなのが…いけないのよ」


と、言ってナイフで俺を刺してきた、7歳の俺は動けなくて目をつぶった。暖かいものに包まれて母親の匂いがしたが、直ぐに離れた……母親は俺を離して、あの女に向かって行ったんだ。
母親は強くて、普通の令嬢がかなうわけなくて気絶させられていた。
すぐに父親が来たんだけど、母親は父親に抱きついてそのまま息を引き取ったんだ。
俺を庇って背中を、深く刺された事が原因だった。

あのメイドは、幼い弟を誘拐されて、俺を連れてこなければ殺すと言われたそうだ。
弟が無事見つかった後、メイドは自殺したらしい。

俺はあの後から、剣術武術勉強とひたすらやりまくった。
俺のせいで……俺が弱かったせいで、母親が亡くなったから、父親は何も言わずやりたい様にやらせてくれた。
たまに、愛馬に乗馬するのが俺の唯一の楽しみだった。
馬は喋らないし俺を裏切らない。

人間はどんなに信用しても、それよりも大事なものがあれば、平気で裏切るから嫌いだ。



そろそろ王宮に着きそうだ、速く父親の所に行かなければ。



俺は馬を走らせた。