(セイバー王国皇帝執務室)




「おいレイモンド!どうゆう事なんだ。私の執務室の机の上に、紛れ込んでいたこの紙は、何の冗談なんだよ!」


勢い良く重厚な扉を乱暴に開けたのは、友人である宰相のライアンだ。


「君達。大丈夫だから少し席を外してくれ」


条件反射で構えようとした、近衛達に落ち着く様、促した。
怒鳴りながら近づいて来て、私の書類の山の机に掌を叩きつけて痛くはないのだろうか?
私は、多分あの事だろうと検討をつけたので、警護の騎士達を部屋の外に追い出したのだ。


「なんの騒ぎだ。宰相様、不敬罪で捕縛されかねないぞ」

「するならしてみろよ。
この紙も意味なくなって、私としては嬉しい限りだ!」


薄い紙を私の目の前で、ヒラヒラさせている。
本当に不敬罪で捕まえようか。


「その紙はな。
婚約承諾書というんだよ。
君の娘と私の息子、第二王子との婚約だよ。
私の印章はもう押印してあるから後は、ライアンが押印したら2人はめでたく婚約で、私達も親戚になるな」

「嫌だ。
お断りだ!王太子ならまだしも第二王子とは、確実にマシェリーが不幸になるのが目に見えているからな!」

「王太子は、隣国の王女との婚姻が決まっている。
2人は恋愛では無いが、思い合っており良い関係を築いておるから無理だぞ」

「知ってるよ。
6年前、私が計画して王太子と隣国のウェブゼンで、2人を引き合わせて仲を取り持つ様に、仕向けたんだからな」

「お前には、いつも裏で色々と世話になってるから、いままでの御礼も込めての今回の婚約なんだが。
レオナルドの承諾も得ている。
あいつもそこまで馬鹿では無いぞ、多少は女に見境がないが、きちんと相手をみて大丈夫な相手かそれ以上の関係は駄目な相手かは、見極めているみたいだぞ。

それにあいつは、第二王子だから将来は王太子の補佐になる。
公爵や伯爵といった上位貴族の手の内や弱身を、あいつなりのやり方で掌握してるのではないのか」

「そんな感じはするが…女遊びはしてるのは、事実だろう。
軽いのは嘘ではないだろ。
私の娘は真面目なんだよ!
もっと誠実で、あの子を本当に愛して幸せにしてくれる男を、私が吟味して決めるんだよ。
間違っても第二王子では、無い!」

「お前も女遊びはしてただろうが、リリーレベッカ後なんだったかなぁ!?」

「私の事は関係ない。それにステファニーと婚約してからは、ステファニー一筋だ。
お前にとやかく言われる覚えはない」


「ライアン、お前も学園に通ってたよな。あそこは、人脈や経験を積むには良い場所だが、学園内には親は介入できないだろ、お前可愛い娘を狼の中に入れても安心できるのか?

教師はいるが、全てを把握はできないだろう。
宰相の娘という旨味を持つあの子は、色んな男から狙われるぞ。
あの子と婚姻すれば何かと美味しいだろうな。

そこでだ、第二王子の婚約者という立場があれば、よっぽどの強者でない限りは手を出しては来ないだろう。
どうだ?良い話ではないか?」

「それも一理あるが…王子には手を出さない様には、言ってるんだろうな」

「大丈夫だ、あいつにもきちんと話してあるよ。
まあ、本気でお互いが結婚したかったらしても良いが、あの子達がお互いに好きな相手ができるまでの、隠れ蓑の関係だとは伝えてある。

どうだ!これでも文句あるか?」


「無い……了解した。印章を押印して書類を提出する」

「私としては、本当に婚姻してもらったら嬉しいのだがね。
我が息子は、基本女にだらしないのは確かだからな、お前の娘なら大丈夫な気がするんだよな」

「それは。ぜっーたいに無いから安心して下さい。陛下」


やっと落ち着いてきた様だ。
ライアンは娘の事になると、ヒートアップしていかん。
冷静沈着な宰相殿なんて言われているが、いつかバレた時が面白い…


「ふぅーまぁいい。
せっかく我が執務室に来たのだからお茶でもどうだ?」


疲れた様に,,ドサッ,,っと椅子に座ったライアン。
私の方が疲れているのだが。
幼馴染みの、良い友人だから皇帝のこの私が気を使ってやるか。


「喉が渇いたのでいただきます」


本当に……困った奴だ。