私はごめんと言いながら、何度も何度も頭を下げる野田くんになんて言うべきか分からなかった。

だって野田くんのことを恨んだことは一度もなかったから。



「謝ってもらう必要なんてないよ。野田くんは私に何もしなかったもん」


「見て見ぬふりをしたじゃないか」


「でも野田くんは私のいじめを時々止めてくれた。それは見て見ぬふりじゃないよ」


「……それは」


「そんなことしてくれる人、野田くん以外にいなかったから嬉しかったんだよ。ずっとお礼が言いたかった。ありがとう」


私が少し微笑むと、野田くんはゆっくりと私に近づいてきた。



「神崎さんにしたことはなかったことには出来ないし、図々しいこともわかってる。でも、これからは変えられるかな?」


私はどうせ誰にも伝わらないのだと、誰も変わってはくれないのだと、勝手に完結して、自分の気持ちを言葉にすることを諦めた。

だけど、それは私の間違いだった。



「……人は自分が間違ってるって認められた人が変わることが出来るの。だから野田くんも大丈夫だよ」


この世界にはちゃんと、私の気持ちを受け止めてくれる人がいるんだ。


私は小さく野田くんに微笑みかけた。


中里くんがくれたもうひとつの世界。この世界だったら私が死ぬことは……ないのかもしれない。