「神崎さんは、美術部だったよね?」


唐突に野田くんに話しかけられ、私の時間は一瞬止まった。


「え、そうだったの?」


「う、うん。2年生になって辞めたちゃったけどね」


「確か、1年生の冬だっけ?神崎さんの書いた絵が地区のコンクールで優秀賞とったの」


「どうしてそれを……?」


私がそう尋ねると野田くんは少し目線を逸らして「たまたま聞いた」と言った。



「神崎の書いた絵、みたいな〜今度見せてよ」


「え……」


そんな事言われても、絵の具やキャンパスは全部磯貝さん達に捨てられて……新しいものを買えないから部活辞めるしかなかったんだよね。


「そ、そのうちね」


私は一生懸命笑顔を作って嘘をついたことを悟られないようにした。



「あ、俺こっちだわ。2人はそっち?」


しばらく他愛のないことを話していると、とある交差点の前で中里くんが言った。


「中里って赤坂地区なんだな。俺は緑地区だから。神崎さんは?」


「私も緑地区……」


待って待って待って。このままだと私、野田くんと二人きりにならない?

怖い……。


私は不安な表情を隠しきれず、中里くんに目線で助けを求めた。