家に帰ってお風呂に入り、部屋で音楽をかけながらゆっくりしていると、スマホが鳴った。

 画面を見ると、弘則からだ。タップして電話に出る。


「もしもし?」

『もしもし。今、大丈夫?』

「うん。寝てなくていいの?」

『夕方寝すぎて全然眠れないんだ。あはは……』

「あはは、まああるよね。そういう事」

『だから、ちょっと話したいなって。……いい?』


 うーん、どうしよう。と思った。

 でも今までの私なら「いいよ」って言う。少し迷って、結局「いいよ」と返した。


『プリン、ごちそうさま。おいしかった』

「いえいえどういたしまして」


 プリンのお礼から、話は今日の部活で次のゲームの簡単なルール説明を受けた事や、それが終わってから遊んだゲームの話で盛り上がった。


「えっと、今日作る予定だったキャラクターシート? は、弘則が全快してからみんなで作ろうって」

『そうなんだ……ごめんね』

「謝らないで。風邪はしょうがないし、遊びよりも弘則の体の方が大事だよ」

『ありがとう……』


 時計を見ると、22時をまわったところだった。そんなに長話はしていないけど、弘則が「もうそろそろ頑張って寝るね」と言うので「うん、じゃあ切るね」と私は返事をする。


『雛ちゃん』


 スマホを耳から離そうと思ったら名前を呼ばれて、再び耳にスマホを当てる。


「ん?」

『好きだよ』

「……」


 何を言い出すんだこの子は。


『いつも、ありがとう。雛ちゃん』

「……弘……」

『おやすみ』

「…………うん。おやすみ」


 今度こそ、通話は切れた。

 行儀悪くベッドに寝転がって話していた体勢のまま、腕をまっすぐ横に下ろすと布団がボスッと音を立てる。

 耳元で響いたばかりの「好きだよ」が、まだ体の中で反響しているかのようで、おかしなうめき声をあげて私はそれをかき消した。