一人で感動していたが、大きなギター音と「ベース、もっと音量上げて」というクノさんの声が響き渡った。
ギターを構えた彼の姿に胸がいっぱいになったが、勝手に音量のつまみをあげられ、戸惑ってしまう。
「でも、そんな音大きくしたらミスがすぐばれます……」
「自信なさげな音なんて聞きたくねーよ」
――絶対できるって信じてれば意外といける。
クノさんに言われたことを思い出す。
今まで動画で見ていたロックバンドはみんな全力で、必死で、楽しそうで。
私もあっち側に行けるのだろうか。
ピックを使って弦をはじく。
その度に体が震えるほどの音に包まれる。
地鳴りのような低音がドラムと合わさって、鼓動のように心を揺らす。
――できる。やってやる。
「準備完了しましたー。曲やりましょー」
クノさんの合図により、音を止める。
部屋の中が静寂に包まれる。
「一曲目、さよならストライク」
クノさんの部屋で何度もやり直しさせられた曲だ。
そして、彼が経験した挫折と弱さを綺麗なメロディーに乗せた曲。
ドラムのカウントに合わせ、弦を押さえる左手に力を入れ、右手で弦を揺らす。
私だけじゃない。ここにいる三人の音が重なり合う。
まるででっかい音の固まりを作り出したみたい。
クノさんの歌声により、その固まりは泣いたり、笑ったり、感情を持った生き物になる。
「やべーじゃん」
曲が終わり、満足そうなクノさんの表情を見た瞬間、思った。
他の家庭より色々と足りていない家のこと。
上手く付き合うことができない友達のこと。
気持ちを心に押し込めてばかりの自分のこと。
毎日は上手くいかないことばかり。でもそれでよかったんだ。
その分、三人で作り上げたこの生き物をより人間らしく、誰かの心を揺らせるように。
私はこのために生きていきたい。