バンドやりましょう、にはまだ回答をもらえていないけれど、クノさんは有名バンドのスコア(楽譜)をいくつかくれた。

去年、ライブした時に練習したものだという。

当時はドラムがミハラさん、ギターボーカルがクノさん。

あと一人、ベースをやっていた人はカンニングがバレて退学し、今は音信不通になっているとのこと。


「それにしても、初めての割にはいいやつ買ったじゃん。それプロでも使ってる人いるし」


クノさんはベースを手に取り、チューニングを整えてくれている。


「お前のことだから楽器屋に言いくるめられて、しょぼいベース買わされそうなのに」

「中古をネットで探して、それ売ってるとこに行きました」

「けっこうしたっしょ。自腹?」


しゃべりながらもクノさんは左手で弦をおさえ、右手の指で弦を揺らす。

アンプを通していないから音は弱い。

でも、確かな低音が部屋に響いた。


鳴らされた音に鼓動が高なった。

同時に、後ろめたさが込み上げてきた。


「……今まで貯めてきたお金を遣いました。うっ」

「ちょ、何泣いてんの」

「なんか人生の岐路をドリフトしながら超スピードで曲がってるみたいで、怖いのとワクワクが混ざってよく分かりません! うわーん!」


まともに楽器を持つのは生まれて初めてだ。

とにかく練習して、早くクノさんに追いつかないと。