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私、相葉穂花(あいばほのか)、28歳。独身。大学卒業の時に彼と別れてからはずっと一人。
そんな私の春のささやかな楽しみは、お気に入りの桜の木の下で一人飲みをすること。
その日も缶酎ハイを何本かと、つまみを買って桜のある小さな公園へ向かった。
のだが。
先客がいた。1組のカップルだ。女性の怒ったような声が響いてくる。どうやら喧嘩をしているようだ。今日は諦めて帰るか、と思っていると。
パチン!
平手打ちの音が聞こえた。そして、髪の長い女性がこちらの方へ一人で走ってきた。私に気付き、気不味い顔になってそのまま公園を出て行った。叩かれたのだろう男性はぼんやりとこちらの方を見ていた。
私はどうしていいものか迷ったが、その男性のところまで歩いていった。
「あ、すみません。お見苦しいものを見せてしまって」
男性は笑っていったがその笑顔は悲しげだった。
「いえ。
私はここでひとり花見をしようと思って来たのですが……」
私はなんだかその男性が気の毒な感じがして、
「一緒に飲みませんか?」
と声をかけてしまった。男性は、一瞬目を見開いて、
「あ、では、ありがたく……」
と笑った。
「種類はあまりないんですけど、どれか飲みたいものをどうぞ」
男性はモスコミュールを手に取った。
私はビニールシートを桜の木の下に引いて座った。
「失礼します」
と男性も隣に座った。
「よく来られるんですか?」
「あ、はい。この大きな桜の木が好きで、この季節は一人飲みに会社の後来るんです」
桜は満月まであと少しの月に照らされて仄かに白く浮かび上がっていた。風が吹くと薄い花びらがはらはらと涙のように落ちた。
「綺麗ですね」
男性の言葉に私は深く頷いた。
「あ、名前を名乗っていませんでしたね。僕は草瀬と申します」
「相葉と申します」
「僕はここの近くの『にこにこ整骨院』で働いています」
「あ、この先の通りのですか? 結構大きな整骨院ですよね」
「はい。もしもお身体の不調でお悩みでしたら来られてみてください」
草瀬さんはカバンの中からチラシを出して私にくれた。
「私、事務職でずっと座りっぱなしなんですが、腰が痛いなと思ってました。今度行ってみようかな」
「ぜひ」
草瀬さんは人の良さそうな笑顔を見せた。
私、相葉穂花(あいばほのか)、28歳。独身。大学卒業の時に彼と別れてからはずっと一人。
そんな私の春のささやかな楽しみは、お気に入りの桜の木の下で一人飲みをすること。
その日も缶酎ハイを何本かと、つまみを買って桜のある小さな公園へ向かった。
のだが。
先客がいた。1組のカップルだ。女性の怒ったような声が響いてくる。どうやら喧嘩をしているようだ。今日は諦めて帰るか、と思っていると。
パチン!
平手打ちの音が聞こえた。そして、髪の長い女性がこちらの方へ一人で走ってきた。私に気付き、気不味い顔になってそのまま公園を出て行った。叩かれたのだろう男性はぼんやりとこちらの方を見ていた。
私はどうしていいものか迷ったが、その男性のところまで歩いていった。
「あ、すみません。お見苦しいものを見せてしまって」
男性は笑っていったがその笑顔は悲しげだった。
「いえ。
私はここでひとり花見をしようと思って来たのですが……」
私はなんだかその男性が気の毒な感じがして、
「一緒に飲みませんか?」
と声をかけてしまった。男性は、一瞬目を見開いて、
「あ、では、ありがたく……」
と笑った。
「種類はあまりないんですけど、どれか飲みたいものをどうぞ」
男性はモスコミュールを手に取った。
私はビニールシートを桜の木の下に引いて座った。
「失礼します」
と男性も隣に座った。
「よく来られるんですか?」
「あ、はい。この大きな桜の木が好きで、この季節は一人飲みに会社の後来るんです」
桜は満月まであと少しの月に照らされて仄かに白く浮かび上がっていた。風が吹くと薄い花びらがはらはらと涙のように落ちた。
「綺麗ですね」
男性の言葉に私は深く頷いた。
「あ、名前を名乗っていませんでしたね。僕は草瀬と申します」
「相葉と申します」
「僕はここの近くの『にこにこ整骨院』で働いています」
「あ、この先の通りのですか? 結構大きな整骨院ですよね」
「はい。もしもお身体の不調でお悩みでしたら来られてみてください」
草瀬さんはカバンの中からチラシを出して私にくれた。
「私、事務職でずっと座りっぱなしなんですが、腰が痛いなと思ってました。今度行ってみようかな」
「ぜひ」
草瀬さんは人の良さそうな笑顔を見せた。