祖母の家には立派な掘り炬燵がある。

 冬、私佐藤美波と幼馴染の早川和馬は、この炬燵に入ってテレビを見たり、勉強をしたりする。毎年のことだ。

 そして、今年、中二の冬も二人して炬燵に入り、向き合って勉強をしていた。和馬は学年十位以内に入るほど頭がいい。なので私の勉強を見てくれていた。

「ここはこの数式にあてはめて、ここをこうすると……」
「あ、わかった」

 和馬は教えるのもうまい。

「来年は受験だぞ?お前ももう少し勉強しろよな」
「うーん、分かってるけど、私は和馬みたいに頭良くないし、公立の高校ならどこでもいいよ」
「……ふーん」
「和馬は……」

 言おうとした私の足を何かが触る。足先をつんつんと。そして足を踏まれた。

「?! 和馬? 何?」
「何って?」

 和馬は顔色を変えずに聞き返してくる。
 この部屋には私と和馬しかいないはず。
 猫でも入ってるのかな?
 よくわからないけど、私は話の続きを始める。

「和馬はN高行くんでしょ?」
「まあ、そのつもりだけど」

 つんつん。まただ。何だろう。
 和馬は自分の宿題をしている。

「ねえ、なんかこたつにいない?」

 和馬が私を見た。目がなんか怖い。

「……何で?」
「なんか、足先に何かが触るような感覚が」

 つんつん。

「ほら、また!」
「ふーん。……猫かなんかいるのかもな」

 和馬は気にも止めずに問題集に視線を落とした。

「和馬、なんか怒ってる?」
「……なんで?」
「なんとなく」
「怒らせることしたの?美波」
「して、ないけど」

 つんつん。まただ。

「いたっ!」

 足先にかかとのようなものが落ちた。
 さらに今度はふくらはぎの方をつつつと何かが触る。
 私はガバリと炬燵の中を見た。

「何も、いない……」