突然名前を呼ばれて振り向くと、恵里果が立っていた。


恵里果とあたしは同じ2年A組で、恵里果とは高校に入学してからずっと仲よしだ。


恵里果は今にも泣きだしてしまいそうな顔でこちらへ近づいてくる。


しかし、みんなと同じように体中が痛いのか、ゆっくりとした動作だ。


「恵里果……」


「あたしたち、どうしてこの教室にいるんだろう? ここに来た覚えがないんだけど」


恵里果はそう言って長い前髪をかきあげた。


相変わらず、同年代とは思えないフェロモンをまき散らしていて、1年生2人組が恵里果に見惚れてしまっている。


「あたしも同じだよ」


恵里果にそう返事をし、記憶を辿ろうとすると頭が痛くなると訴えようとしたときだった。


「おい、ドアが開かない! 誰か手伝ってくれ!」


途端に貴央がそう叫んだのだ。


切羽詰った声に、教室内の空気が一瞬にして張りつめた。


「開かないってなんでだ?」