「アンジェリ―ナ様」

 掌に伝わる、大きな温もり。

「俺は、あなたを諦めません」

 聞き心地のよいバリトンの声が、耳の奥をくすぐった。

 ビクターのデレは、日増しに強くなっている。もはや、ツンは欠片ほどしか残っていないのではないだろうか。

 とにかくアンジェリ―ナは、彼のことがものすごく苦手だと思った。

(こっちだって、ネクラ生活を諦めるものですか)

 アンジェリ―ナはビクターの手から手を抜くと、勢いよく彼から距離をとった。

「王子の命令なら、仕方がありません。ですが、約束してください」

「約束?」

「私のやることなすことには、一切口出ししないでいただきたいわ」

 強い視線で、言い切ってやる。

 そしてビクターの返事を待たずして、アンジェリ―ナは颯爽と身を翻し、塔の中へと戻ったのだった。