婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

「ありがとう……。死ぬほど、愛しています……、アンジェリ―ナさま……」

 そして、彼はアンジェリ―ナの手首を掴んだまま、がっくりと意識を手放した。 

(……!)

 間もなくしてスースーと規則正しい寝息をたてはじめた彼の寝顔を、アンジェリ―ナは凍り付いたまま見つめていた。

 情報が倒錯していて、頭がこんがらがっている。

 まず、彼を助けたのはララではないとバレていた。バレていたどころか、彼はアンジェリ―ナを知っているようだ。そして――。

「いったい、何キャラ……?」

 顔を赤らめ、目を逸らし、舌打ちしつつも感謝の言葉を述べた彼。一見してツンデレのようだが、初対面で『愛してる』はないだろう。デレが濃すぎて、ツンデレのよさが生かされていない、むしろ台無しだ。

「デレツン? それとも、ツンデレデレ……?」

 呟いたところで、背後にある扉が開いた。不思議そうな顔で、ララがアンジェリ―ナを見ている。

「アンジェリ―ナ様? 物音がすると思ったら、こんなところで何をしておいでなのですか? ……って、その方!」

 ベッドの上でアンジェリ―ナの手首を掴んだまま眠る男を見て、ララが目を丸くする。

「ビクター様ではありませんか!」