婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

「では、私は一度退室します。また戻ってきますので、どうぞそのまましばらくお休みください」

　何があったのかは知らないが、今の彼は意識が朦朧としている。自分を救った女の声など、覚えていないだろう。彼の脳裏には、ララという名前だけが残る。

　だから今度は、ララにここに行くよう促し、彼と対面させるのだ。

　瀕死の自分を救ってくれた乙女を、彼はおそらく特別な目で見るようになるだろう。

　これほどのイケメン細マッチョだ。ララだって、トーマスのときとは違い、目がハートになるに違いない。

　だが、ベッドから離れようとしたとき、がしりと手首を掴まれた。

　振り返れば、じっとアンジェリ―ナを見つめる澄んだブルーの瞳と目が合う。

　男はアンジェリ―ナを目を合わすなり、みるみる顔を赤らめた。ララの作ったクッキーを渡したときのトーマスの赤面など、比べ物にもならないほどの赤らみ具合だ。

　その直後、「……チッ」と忌々しげな舌打ちを吐き、アンジェリ―ナから視線を逸らす。

「こんなこと……頼んだつもりは、ありません……けれど……」

　そろり、と男の視線がアンジェリ―ナに戻される。