子供たちの後ろ姿を見送りながら、アンジェリ―ナは安堵の息を吐く。

「結局、もやしの作り方を伝授されたじゃないですか。なんだかんだいって、お優しいんですから」

 からかい口調で言うララに、アンジェリ―ナは,冷めた視線を向ける。

「毎日来られたんじゃ、たまったものじゃないもの。これでもう、あの子たちはここには近づかないでしょう」


 アンジェリ―ナの予想は現実となり、翌日から子供たちが塔に訪れることはなくなった。

 だからアンジェリ―ナは、この最果ての地で、何が起こっているかなど知る由もなかった。

 バーベキュー師匠は一週間かけてもやしの育成に成功した。簡単にできて、ボリューミーなその未知の野菜は、すぐにこの最果ての領土で話題となった。

 トーマスの言っていたように、日照りの悪さから、この界隈の人々は農作物の不作に悩み、つねに空腹に苦しんでいた。日光を必要せず、大量生産できるもやしは、貧しい人々の支えとなっていく。

 そしてもやしの育成方法を教えてくれた“悪魔の塔”に住む謎の美女のことを、人々は陰で『もやしの聖女さま』と呼び、崇めるようになったのである。