婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

「スチュアート、落ち着け」

 すると、耳慣れない男の声が、唐突に降ってきた。

 見れば、部屋の入口に、臙脂色のローブ姿の初老男性が立っている。灰色の髪に、口髭。目尻にシワの刻まれた瞳は、淀みのないブルーだ。

「ち、父上……!?」

 スチュアートが、剣を手にしたまま瞠目した。

 それは、久々に見るこの国の王だった。高齢の彼は床に伏していることが多く、あまり表には出てこない。アンジェリーナも、国王に謁見するのはかなり久しぶりだ。

 ビクターが、大急ぎで剣を床に起き膝をついて厳粛に頭を下げる。アンジェリーナも慌てて立ち上がり礼をしようとしたが、何分ジャージ姿なのでスカートが摘まめず狼狽えた。

 そんなアンジェリーナに、「アンジェリーナ、かしこまらなくてもよい」と王は優しく声をかけてくる。

「国王陛下、申し訳ございません……っ。このようなはしたない格好で……」

「謝らなくてもよい。むしろ、謝らなくてはならないのはこちらの方だ。スチュアートがしでかした数々の無礼を、心よりお詫びする」

 それから王は、スチュアートに冷たい目を向ける。

「剣を置け、スチュアート。アンジェリーナに剣を差し向けるなど、ふとどきにもほどがある」