婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

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 投げかけられたビクターの微笑みに、アンジェリーナの胸がきゅんと疼く。

 ピンチのところを、ビクターは単身救いに来てくれたのだ。そして、なりふり構わず、この国の王子であるスチュアートに剣を向けた。

 全ては、アンジェリーナのために。

(こんなの、好きになるに決まってるじゃない)

 ビクターがアンジェリーナに夢中なのは、キャラクター上の設定だ。だが、その想いを貫き通すために、彼はキャラブレを起こし、幾度もシナリオを捻じ曲げ、それでもアンジェリーナを想い続けてくれている。

(ビクター様のことを信じてもいいのかもしれない)

 ビクターの熱い眼差しに、アンジェリーナはひたむきな視線で答えた。

「おい、お前たち! 今の状況を分かっているのか? 見つめ合っている場合ではないぞ!」

 ぎりっと、スチュアートが奥歯を噛んだ。

 とはいえ、いまだ次々と身体を這い登っているヤドカリの感触が気持ち悪いらしく、しきりに身体中をゆさゆさと揺らしている姿が滑稽で仕方ない。エリーゼも涙目になりながら、ヤドカリをどうにか振り落とそうと必死だった。

 スチュアートの声に触発されたように、ビクターが再び彼に剣を向ける。スチュアートも慌てて剣を構えたものの、ヤドカリのせいで体の軸がぶれて安定しないようだ。

「……くそっ!」

 目の前で悠々と剣を構えるビクターの姿に、次第に焦りを感じたのか、スチュアートはひときわ大声で悪態を吐いた。やがてスチュアートは、「誰か来い!」と大声を張り上げる。

「この私に剣を向けている不届きものがいる! ひっとらえて、アンジェリーナもろとも処刑しろ!」

 思った以上のポンコツだわ、とアンジェリーナはため息を漏らした。気に入らないものを問答無用で処刑など、暴君のすることだ。こんな男がいずれはこの国の頂点に立つなど、先が思いやられる。