婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

 その日の夜。

 ジャージ姿で、アンジェリ―ナはランプを片手にそうっと塔を抜け出した。

 厩にいるビクターにも、監視小屋にいるトーマスにも気づかれないよう、最善の注意を払って庭を抜ける。うまく門を潜り抜けたときには、喜びのあまり叫びたくなるのを必死にこらえた。

(さあ、海へ行くわよ!)

 幸いにも、“悪魔の塔”の真下は海だ。ただ、断崖絶壁にあるため、浜辺に降りられるようになっているのか皆目見当もつかない。

 だが、崖に沿ってしばらく歩くうちに、すぐに階段を見つけた。階段の下は浜辺になっていて、“悪魔の塔”の真下よりもずっと波が穏やかだ。

 エリーゼは砂浜にしゃがみ込むと、ランプの光をたよりに貝殻を探しはじめた。大小さまざまな形の貝殻が、思った以上にあちらこちらに落ちている。

「素敵な貝殻がいっぱい……!」

 珍しく少女のような純真な気持ちになって、貝殻採取に夢中になった。虹色に輝く細長い巻貝に、真っ赤なトゲトゲの巻貝。ヤドカリが宿替わりをするところを想像するだけで、にんまりと笑みを浮かべてしまう。

 貝殻は、あっという間に十個揃った。

「これぐらいでいいかしら」

 全てを持参した麻袋に入れ、口を縛る。夜が明ける前に帰らなければ、ララかトーマスに見つかってしまう。アンジェリーナは麻袋を抱きしめると、家路を急ぐことにした。

 ――だが。

 浜辺から立ち上がった瞬間、ファサッと風の気配がしたかと思うと、アンジェリーナの視界は完全なる闇に覆われ、息苦しさに襲われた。

 どうやら、背後から袋をかぶせられたようだ。アンジェリーナはすぐさま袋を頭から剥ぎ取ろうとしたが、次第に目がくらくらとしてきて、猛烈な眠気に襲われる。

 そして、あっという間に意識を手放してしまった。